反論しない国 データ出さない関電
裁判所がデータ提出を求める
今回は、午前の高浜事件で、井上功務弁護士から「加圧熱衝撃(PTS)評価計算に関する再反論」について、北村栄弁護士から「原発 関連新聞記事のまとめ」について要旨の陳述を行い、午後の美浜事件では、甫守一樹弁護士が「基準地震動に係る主張のまとめ」の要 旨を陳述しました。
「加圧熱衝撃(PTS)評価計算に関する再反論」は、本訴訟で重要な争点の一つである原子炉容器の中性子照射脆化の評価が適切に行 われているかどうかという問題について、今回、また新たに、規制委が評価の条件となる重要な数値を把握しないまま審査していたこ とが確認されたため、その違法性を強く訴えたものです。
<規制委が熱伝達率を把握しなかったとは?!>
加圧熱衝撃(PTS)評価とは、緊急時に原子炉容器が冷却水で一気に冷やされ収縮した時に、外面との温度差で強い引っ張り応力が かかりますが<加圧熱衝撃(PTS)>、この時に、原子炉容器に亀裂があることを前提に亀裂を進展させる力の大きさを評価した曲線 を求めて、破壊靭性値(原子炉容器の粘り強さ)を上回らないか(デッドクロスしないか)を確認する重要な評価です。
このPTS評価をするときに、どのような熱伝達率の数値に設定したかはその評価に大きな影響を与えるもので、規制委もそのことは 認識していました。なのに関電に確認もしていなかった、だから熱伝達率が適切かどうか審査もしていなかったということを、裁判で の求釈明から2年経ってようやく国が認めたのです。
老朽原発の延長認可で重要な原子炉容器の監視試験片の原データを確認もせずに審査していたことに続き、評価に大きな影響を与え る条件の数値も確認もしていなかったとはがく然とします。
そして、国が反論してきた熱伝達率を把握する必要がないとする理由はどれも、「はあっ?!」と言いたくなるものばかり。
(1) 計算プロセスをいちいち確認する法的義務はないし、法律が品質保証体制の確立を要求していて申請内容の信頼性は担保されているか ら。
(2)30年経過時点での高経年化技術評価の時に確認したPTS状態遷移曲線と比較して目立った変化はないから。
(3)熱伝達率 の影響は限定的だから。はあっ?!法的義務がないとか品質保証体制があるといった反論は、国は監視試験片についても主張していま したが、金品不正受領事件を起こした関電の品質保証体制を持ち出しても説得力がないですし、品質保証体制があるからといって、行 われた試験の結果を鵜呑みにせず、データや過程を確認するのは規制委の責任ではないのでしょうか。
また、福島原発事故以前からあった高経年化技術評価は、事業者の自主性に委ねる部分が大きく、老朽炉対策として不十分なもので あったという観点から、さらに運転期間延長認可制度が特別に設けられた経緯があります。万が一にも深刻な原子力災害を起こさない ための審査でなければならないのに、目立った変化がなければいいで済ませるのは延長認可の重みをわかっていません。
そして、熱伝達率は冷却中に大きく変わり、デッドクロスに大変近い曲線ができることもあります。影響が限定的なんて、とても言 えません。
重要なデータや設定値を確認もしないで延長認可を出していたことだけでも、規制委の審査に不信しかありませんが、確認しなかっ た言い訳を聞くたびに、さらに不信・不安は募るばかりです。
<監視試験片の原データを隠さず全部出して!>
もう1本の曲線「破壊靭性遷移曲線」を描くために必要な監視試験片の原データについて、私たちは2020年7月に文書提出命令を申 し立てています。監視試験片は、原子炉容器に同じ鋼材の試験片を入れておいて、中性子を浴びてどのくらいもろくなったかを10年ご とに取り出して試験をするためのもの。これを、たたく試験(シャルピー衝撃試験)、引っ張る試験(破壊靭性試験)を行い、そのデ ータから原子炉内の金属がどれだけもろくなったかを示す「破壊靭性遷移曲線」を描きます。
裁判長は前回期日に関電に対し、試験片の原データを示して破壊靭性遷移曲線の計算の仕方について説明するよう求めました。にも かかわらず、今回関電は原データを出さず、要求に応える説明とはなっていませんでした。裁判所が再び働きかけたようで、さすがに 関電も次回はシャルピー試験のデータを出すと言いました。しかし、破壊靭性試験データの方は「適切なデータが得られなかった」の 一言で済まそうとしています。
これに対して、私たちは12/28付けで関電に対する求釈明を提出し、適切なデータが得られなかったのはどの部位(母材、溶接金 属、熱影響部等)から採取された試験片で、温度を何度で試験を行い、どのような理由で適切なデータが得られなかったのか(1 延 性破壊したのか、2 試験装置の故障なのか、あるいは他の理由か)を説明し、そのデータを「適切」なものでないとして除外した理 由を明らかにすべきと求めました。関電が自身に不利益なデータを 「適切なデータでない」として恣意的に除外していないかどうか確 認する必要があります。
<基準地震動の設定が甘すぎるのは明白!>
甫守一樹弁護士は、基準地震の設定が甘すぎることを4つのポイントにまとめて主張をしました。特にあきれるのは、極近傍の震源 を審査していない問題です。
新規制基準では、震源が敷地に極めて近い場合は「さらに十分な余裕を考慮」して基準地震動を策定することになっています。しか し、美浜原発から1km未満の地表に断層の露頭がある白木-丹生断層や、同じく2.3km地点に露頭があり、断層の傾きのために原発敷 地直下にアスペリティ(固着域。断層が動いた際に強い揺れを発生させる)が位置することが想定されるC断層について審査はされて いません。この問題を私たちは何度も指摘してきましたが、国から反論がなく、それを正当化するレトリックすらこの5年間出してき ていません。甫守弁護士いわく、「延長認可の期限があるので美浜は時間切れだった。規制委は関電に断層上端を深さ4mから3mにさ せるのに時間を使いすぎて、震源極近傍の審査にたどり着けなかったのが実態ではないか」。
審査の過誤・欠落は明らかです!