報告集会録画はこちら → https://youtu.be/UPjrXba1Gnk
老朽化問題のまとめを陳述
監視試験片原データでわかったずさんな試験!
4月の異動で、左陪席裁判官(向かって右)が、若林憲浩裁判官から岩谷彩裁判官に交替しました。日置朋弘裁判長、佐久間隆裁判官、岩谷彩裁判官、この3名の裁判官が判決を担当することになると思われます。なお、今回は、弁論更新は冒頭で形式的に済ませました。
<バックフィット訴訟不当判決批判>
午前の高浜事件では、まず、中野宏典弁護士が、40年廃炉訴訟と同じ裁判体(3月時点:日置朋弘裁判長、佐久間隆裁判官、若林慶浩裁判官)によるバックフィット訴訟不当判決3/10の問題点を説明しました。
裁判前のミニ集会で、感情的にならないように話したいと語った中野弁護士ですが、報告集会で、冷静に話すつもりだったが、自分が担当した裁判の判決だったので、つい強い口調になってしまったと反省の弁を述べることに。
バックフィット訴訟判決の主要な問題としては、
・判決は国の主張をうのみにしたということが大きな問題だが、その理屈のつけ方も非常に良くない。
伊方最高裁判決は、深刻な災害を万が一にも起こさないようにすると書いていた、その「万が一」をあえて除いて、「災害を防止すること」を目的とするとしていて、軽くなっている。
さらに、伊方最高裁判決は、単に「原子炉施設」と書いているのに、今回の判決は、「発電用原子炉施設」とくどいくらいに書いていて、電気のためには多少の安全は犠牲になっても仕方がないんだというようなニュアンスが受け取れる。
・そして、福島原発事故は発生確率が低いとされていた地震や津波が発生して事故を起こしたという反省が全く活かされていない。当時のバックチェック制度(事業者の自主的対応)では原発を止めずに対策をズルズルと引き延ばされて事故が起きてしまった。バックフィット訴訟では、火山噴出規模の想定が引き上げられてくん福島事故前と同じ状況にあるのだから、その教訓を踏まえて原発を止める判断をすべきだと主張してきたが、裁判所は蓋然性が低い、発生確率が低いから大丈夫なんだという全く福島事故の反省が活かされていない形で判断してしまった。これでは、地震や津波、火山といったものは発生確率が低いので実質止めないということになってしまい、バックチェックと何が違うのかという問題がある。
ということです。
バックフィット訴訟判決は、伊方最高裁判決に反し、原発の使用停止を義務付けるための主張立証責任を原告に負わせた点も見過ごせません。伊方最高裁判決は、審査の資料は全て行政庁が持っていることなどから、行政庁が判断に不合理な点がないことを主張立証する必要があり、それが尽くされない場合には、不合理な点が事実上推定されるとして、「疑わしきは安全のために」判断する枠組みを取りました。しかし、今回の判決のように住民に立証責任を負わせると、住民が行政庁の判断が不合理であることを立証できない限り原発の稼働が認められる「疑わしきは稼働のために」判断することになってしまい、深刻な災害が万が一にも起こらないようにするという趣旨に反します。
20220418 準備書面(87)バックフィット訴訟判決の問題点
<電気ケーブルの劣化評価 全く裕度はないのに>
続いて、谷次郎弁護士から、電気ケーブルの老朽化問題について、国からの反論への再反論について説明しました。
国は、関電が電気ケーブルの絶縁低下の代替指標として「破断時の伸び」を基準としているのではなく、耐電圧試験により絶縁破壊が生じていないことを確認しているとか、健全性評価においては十分な裕度が設けられていると反論してきたのですが、JNES(原子力安全基盤機構)のJNES-SSレポートでは、破断時の伸びを評価した同じ種類のケーブルの絶縁抵抗値のデータがあり、照射時間4000時間近くで抵抗値が375万分の1へと急激に低下していることがわかります。もしも、絶縁低下を判断指標にしているならば、照射時間を基準として評価すべきで、絶縁低下が急激に低下した試料は不合格として照射時間で評価すべきなのにそうしていないので問題です。裕度があるとしている点についても、抵抗値が375万分の1に低下したり、破断時の伸びが新品の420%から29%にまで低下したようなものを合格としているのですから、十分な裕度が設けられているなどとは到底言えません。
20220421 準備書面(85)陳述要旨(スライド)
<使用済み核燃料の処分について審査すべき理由
アメリカでは、安全に貯蔵できる裏付けないと裁判所が原発の更新を認めなかった事例も>
高浜事件の最後は、伊神喜弘弁護士が、前回主張した使用済み核燃料の処分方法について審査をしていないし審査基準すらないという問題について、運転期間延長認可の規定を法律論的にどう解釈すべきかという点からの補足の主張を説明しました。
これまでも主張してきた通り、核燃料サイクルは破綻し、高レベル放射性廃棄物や使用済み核燃料の処分の目途も立っていない、東電福島原発事故で使用済み核燃料プールの危険性が認知されたにもかかわらず老朽原発の使用済み核燃料プールは満杯に近い状況というのに、延長認可にあたり、使用済み核燃料の問題を審査していない、審査基準すらないというのは常識的に考えて絶対に見過ごせない問題なのですが、裁判所からは、審査基準を定めなければならない法的な根拠は何かと問いかけられています。
確かに、原子炉等規制法第43条の3の32第5項は、「原子力規制委員会は、前項の認可の申請に係る発電用原子炉が、長期間の運転にともない生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、その第2項の規定により延長しようとする期間において安全性を確保するための基準として原子力規制委員会規則で定める基準に適合していると認めるときに限り、同項の認可をすることができる。」としているだけで、そのために使用済み核燃料の処分についての基準を定めるようになどと具体的なことは書いていません。
しかし、この老朽原発の延長認可という行政処分は、原発は事故を起こせば広範な住民の生命や財産を脅かすおそれもあるという被害の重大性を考えると、処分を受ける事業者の利益以上に、住民の権利利益の保護が必要ですから、厳格な審査が必要で、そのための審査基準を定めることも当然求められます。
これが行政法学の考え方からも導かれることを説明しました。
法廷では時間切れで説明ができなかったことについて、報告集会で伊神弁護士から、
・かつて国は伊方事件において、使用済み核燃料の再処理が適切に行われる見込みがある場合に限って許可するんだと自分たちの準備書面で書いていたのに、今は段階的規制だから審査しなくていいと言っている、では、誰が審査の責任を持つんですか?という問題であること。
・アメリカには使用済み核燃料の件で原発の更新を停止した裁判例がある。米規制委員会は、発生する高レベル放射性廃棄物と使用済み核燃料を十分に収納する十分な容量の地下施設が必要な時に、それが必要な量確保されるという十分な確信があるか、また、必要が生じた場合、使用済み核燃料を貯蔵プールや所内外の乾式貯蔵施設にプラントの運転認可の失効日から少なくとも60年間、環境への有意な影響なしに安全に貯蔵できる十分な確信があるということを認めて許可したが、裁判所は規制委の確信は証拠で裏付けられていない、不十分だということで止めた。
と紹介がありました。アメリカの判例はとても参考になりますね。
法律に明確な規定がないため法的には難しいテーマですが、使用済み核燃料問題の深刻さと、その審査もしていないという無責任な原子力規制の問題を多くの方に知らせていきましょう。そして、裁判官にしっかり判断していただきたいと思います。
20220407 準備書面(86)運転期間延長認可の法的性質
アメリカの判例については、こちらのp.34〜
20180625 準備書面(27)(放射性廃棄物の審査不存在)
<老朽化のずさんな試験と原発事故の風化>
午後の美浜事件は、まず、老朽化問題のまとめと、監視試験片原データによってわかった破壊靭性試験のずさんさについて小島寛司弁護士が説明を行いました。
老朽化問題については、新しい裁判官にもわかっていただけるよう、これまでの主張を一通りおさらいしました。経年劣化と型の旧さの問題があること、40年ルールの意味、中性子照射脆化の評価にはいくつもの問題があること。そして、ようやく関電が提出した監視試験片原データにより手抜き試験がわかったが、規制委は原データを見てもいないので、この手抜き試験に気づくこともできず、原子力規制に求められる万が一にも深刻な災害を起こさないための審査はなされていないということを訴えました。
*監視試験片原データでわかったことはこちら。→ https://bit.ly/3Ai7I19
最後は北村栄弁護団長より、この間の原発関連新聞記事についての書面を陳述しました。
福島第一原発事故とその被害は未だ続いているのに、一方で事故の風化が進んでいることを示す世論調査結果も報道されています。
そのような中で、2月にトンガ諸島で発生した海底火山の噴火についての記事では、専門家から現在の知見では噴火の予測は難しいと指摘。
このような専門家の警告を受け止めて、二度と取り返しのつかない原発事故被害を起こさないために、事故が起きた時に裁判所としても後悔しないためにも、40年超の老朽原発の危険性を十分理解し、警告を無視したことにならないよう、良心に従った理性ある判断をと求めました。
今後の口頭弁論の予定は7月、10月、12月と入りました。また、次回の口頭弁論からは、被告・国も口頭陳述をするため、高浜、美浜それぞれ1時間半の法廷となります。これまで以上に長時間となってしまいますが、裁判も終盤となり、また、老朽原発の再稼働も迫る中、私たちの危機感を裁判官に伝えるために多くの方に傍聴にお越しいただけたらと思います。
6月1日より、新型コロナウイルス感染症対策による傍聴席数の制限も無くなりましたので、ほぼ傍聴していただけるかと思います。傍聴は午前だけ、午後だけでも構いません。
とは言え、新型コロナウイルス感染症流行下につき、ご無理はされませんようお願いいたします。
<次回以降の期日>
2022年7月8日(金)名古屋地裁2号法廷
高浜1.2号機 10:30~ 第23回口頭弁論
美浜3号機 14:30~ 第21回口頭弁論
2022年10月3日(月)名古屋地裁2号法廷
高浜1.2号機 10:30~ 第24回口頭弁論
美浜3号機 14:30~ 第22回口頭弁論
2022年12月16日(金)名古屋地裁2号法廷
高浜1.2号機 10:30~ 第25回口頭弁論
美浜3号機 14:30~ 第23回口頭弁論
【裁判でわかった】
関電のずさんな試験を見逃した規制委のずさんな審査
40年廃炉訴訟の重要な争点の一つである原子炉容器の中性子照射脆化(ちゅうせいししょうしゃぜいか)。
原子炉容器は鋼鉄でできていますが、長年、強烈な放射線を浴び続けるともろくなります。そうすると、配管破断等によって緊急に炉心に冷却水を入れた際に持ちこたえられない恐れが高まります。
そこで、どのくらいもろさの度合いが進んでいるのかを調べる必要があるのですが、関電の評価でも、高浜原発1号機は脆性遷移温度(金属が一定の温度以下になると粘り強さを失って脆くなる境界の温度)が99℃と全国の原発で最も高く、緊急冷却時の破損が心配されていました。
わたしたちは裁判の中で、国と関電に対し、この中性子照射脆化を調べる監視試験片(原子炉容器に同じ鋼材の試験片を入れておいて、中性子を浴びてどのくらい脆くなったかを定期的に取り出して試験をする)の原データの提出を求めてきましたが、一向に提出されないため文書提出命令の申し立ても行いました(裁判所に提出を命じてもらうための手続き)。そこまでしてようやく、裁判所の働きかけにより、命令ではなく任意の形で、前々回2月4日の口頭弁論までに関電から一通りのデータが出されました。
このデータを井野博満さん(東大名誉教授、工学博士、専門は金属材料学)に見ていただいたところ、破壊靭性試験※が非常にずさんでびっくりしたとのこと!(※試験片にき裂を作り、さまざまな温度下で引っ張ってどこまで耐えられるかを調べる試験)
監視試験片の取り出しは10年ごとで、これまでに4回。試験片には、原子炉容器の母材と溶接金属があり、毎回、両方のデータを取っているものと思っていたのに、1回目と3回目が母材、2回目と4回目が溶接金属という、どちらかしかやっていない手抜きの試験だったのです。しかも、老朽原発の評価で重要な直近の4回目に、原子炉容器本体である母材の試験をやっていないのです!
データ数も、高浜1号機が9個、2号機が10個と極めて少なく、そもそも破壊靭性試験は測定値が大きくばらつくことが知られているので(「倍・半分」と言われるほど)、少ないデータではとても適正な評価はできません。他の原発では、各試験回次ごとに母材と溶接金属の両方を複数個以上試験しています(九州電力玄海1号機、四国電力伊方2号機)。
関電が監視試験片原データの提出をずっと拒んでいた理由には、手抜き試験がばれてしまうということもあったのかもしれません。
原子力規制委員会が審査において監視試験片の原データを確認していないことは、法廷で国の代理人がはっきりと述べています。関電も規制委もずさんすぎます。
どちらも原発を扱う資格はありません💢
老朽原発はこのまま廃炉に!