9/22第3回 12/8第4回(結審)口頭弁論の報告

【結審と判決】原発バックフィット・停止義務づけ訴訟

 第3回(9/22)、第4回(12/8)結審の報告

この裁判は、火山噴火の規模が2倍以上に引き上げられるという重大な見直しがあったので、設置変更許可はもちろん、それに続く工事計画認可等の手続きを経て、最終的な使用前検査で火山噴火への対策の安全性が確認されるまで、原発の停止を規制委が関電に命じることを義務づけるよう求める行政訴訟です。対象原発は高浜3、4号機。担当裁判官は、40年廃炉訴訟と同じ名古屋地裁民事9部の日置朋弘裁判長、佐久間隆裁判官、若林慶浩裁判官です。

被告・国は反論に時間がかかるとして引き延ばしをはかりましたが、裁判所は全ての許認可等が出揃ったらこの訴訟の意味がなくなるとして、裁判を長引かせることは認めず、12/8に結審しました。

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<9月22日 第3回口頭弁論>

被告・国の反論に対する反論を弁護団が説明。

まず、上野孝治弁護士から義務づけ訴訟における重大性の要件について。

行政事件訴訟法の37条の2に「義務付けの訴えの要件等」が定められていて、「第三十七条の二 第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。」とされています。

被告・国は、重大性の要件が認められるためには「高度の蓋然性」や「損害発生の切迫性」があることが必要で、その重大な損害が生じる具体的・現実的危険性があることを原告が立証すべきだが、原告はしていないので、訴訟要件を欠くから却下と主張。

しかし、この義務付け訴訟が法定された2004年の行訴法改正に向けての国の検討会における議論では、そもそも改正が救済範囲の拡大を目指すためのものであるので、「重大な損害」という要件は要らないのではないかという意見が最後まで出ていましたし、「原発の運転停止命令を出してくれというときには、まさに重大な損害でぴたり当てはまる」という指摘もなされていました。

さらに、国は「条解行政事件訴訟法」という文献を根拠に、原告が重大性の要件を主張立証すべきとしているのですが、その引用の仕方が恣意的というかめちゃくちゃです。今回は義務付け訴訟なのに、なぜか「執行停止」について書かれている箇所を引用。しかも、その文献の義務付け訴訟の解説には、「損害の性質が、生命・身体の安全の侵害のように、類型的に回復の困難な保護の必要性の高いものであり、それが原告適格を基礎づける法律上の利益の侵害でもあるような場合には、原告適格を認めることができる原告については、被告による具体的な反証がない限り、原則として、重大な損害を生ずるおそれが認められると判断されることが多い」と書いてあるのです!

続いて、国が噴火の切迫性はない、非常用ディーゼル発電機のフィルタ目詰まりによる機能喪失のおそれはないなどと主張していることに対する反論について中野宏典弁護士が説明しました。

・そもそも噴火規模の推定には大きな不確実性がある。堆積した火山灰は侵食や風化の影響を受けやすく、特に古い火山灰は当時の状態をとどめていない。上に別の堆積物が載ると圧縮されて2/3~半分程度の厚さになるともされている。

・そもそも規制委が、DNP(大山生竹テフラ)は発生可能性が否定できないものとして扱ってきたのであり、そのためバックフィット命令も出したのに、この訴訟になると、「活動性が低い」とか「活動性に乏しい」などと言い出した。

・火山噴火予知連絡会の元会長・藤井敏嗣さんは、火山噴火の長期予測について、「切迫度を測る有効な手法は開発されていない」と述べている。

・火山灰濃度が大きくなり、非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタの閉塞時間が短くなったため、関電はフィルタに取り付けられていた「ラビリンス板」と言う火山灰のはたき落とし効果のための板まで外して流速を遅くし、フィルタ閉塞時間を伸ばすという対症療法的な対策を講じたにとどまる。それでも、フィルタ交換に余裕はない。 など。

★第3回口頭弁論時に提出した準備書面
準備書面(3)20210907(被告第1準備書面への反論)
準備書面(4)20210915(原告適格について)
甲F第49号証 20210922「準備書面(3)の第4ないし第6について」 スライド

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<12月8日 第4回口頭弁論・結審>

最終弁論には共同弁護団長の河合弘之弁護士も登場。義務づけ訴訟における重大性の要件に関連して、原発事故による損害の重大性・回復困難性について東電福島原発事故をもとに主張しました。

この裁判では、原発事故による損害の重大性を裁判官にわかってもらうために、河合弁護士が監督した映画「日本と原発 4年後」を証拠として提出しました。河合弁護士は、原発事故避難により助けられたはずの命も助けられなかった浪江町・請戸の浜の悲劇や福島第一原発から40km離れながらも全村避難となった飯舘村の村民の被害、特に、河合弁護士が原発ADRで共に闘った長谷川健一さんが2021年10月に甲状腺のがんで亡くなられましたが、その無念を訴えました。

次に、共同弁護団長の青木秀樹弁護士がバックフィット制度の趣旨、運用のあり方について陳述。

まず、バックフィット制度は、福島原発事故を防ぐことができなかった反省から導入された重要な制度改革であることを国会事故調報告書を引用しながら説明。

2006年に耐震基準が改訂され、保安院が原子力事業者に耐震バックチェックの実施を求めるも、東電は最終報告を先送りにし、東電も保安院も新基準に適合するためには耐震補強工事が必要であると認識していたにもかかわらず、1~3号機について全く工事をしていなかったし、あくまでも事業者の自主的取り組みであるとして、大幅な遅れを保安院は黙認。また、遅くとも2006年には福島第一原発の敷地高さを超える津波が到来した場合、炉心損傷に至る危険があることは東電と保安院の間で共有されていたが、保安院は東電が対応を先延ばししていることを承知で明確な指示を行わなかった。

この反省から、国会事故調は、最新の技術的知見等が「適時かつ適切に原子力法規制に反映される枠組みを構築する必要がある」としたのです。

こうしてできたバックフィット制度が、新たな基準や知見に対応できない原子炉施設は運転ができないとするものであることを国会の審議を引用して述べました。

さらに、自然の脅威に対する反省から、新規制基準では、自然現象に対する規制が強化され、火山が新たに基準として加えられたという経緯。

そして、原発の運転が許容されるために段階的な規制が採用されていて、設置変更許可のみでは原発を運転することはできず、工事計画認可、保安規定変更認可、使用前事業者検査等を経なければならないが、本件では未だ安全が確認されたという状況ではない。<注:本件では、2021年5月19日に設置変更許可が出されたが、未だ工事計画認可、保安規定変更認可の審査中>自然の脅威に対する安全が確認されない状態で運転することの危険性は福島原発事故で現実化しており、その安全が確認されないまま運転することは到底許されないと訴えました。

原告側の最後は中野宏典弁護士が、停止命令を出さないことの具体的違法性について陳述。

4つの違法性として、他事考慮、基準の不存在、期限の不存在、考慮不尽について説明しました。

一つ目の他事考慮とは、規制委が判断にあたり、考慮してはいけないことを考慮した問題です。秘密会議事件では、規制委が、関電の原発差止訴訟の敗訴リスクや経済的損失を考慮していたことが判明。

二つ目の基準の不存在は、使用停止を命じるか否かについて具体的な基準が存在しないこと。恣意的な運用をしないためには、具体的な基準の存在が不可欠であり、基準の不存在は違法。

三つ目の期限の不存在とは、対応完了までの期限が設けられていないこと。国は、最終的な対応完了までの期限がわからなかったから期限を設けなかったと反論しましたが、いつまでに対応が完了するのかがわからないのに、対応が完了するまでの間にDNP相当規模の噴火が発生しないと評価できるということは論理的にあり得ず、自己矛盾です。なお、国は2021年5月19日に本件で設置変更許可を出し、その際に、1年後の最初の定期検査で原子炉を起動するための検査を開始する日までの対応完了を求めたと言いますが、それは関電の対応完了までにこのくらいかかりますという説明を鵜呑みにしただけで、住民におよぶ危険の程度などを考慮したものではありません。

そして、四つ目の違法として、規制委は使用停止を命じない根拠として、

根拠(i) :大山は活火山ではなく活動性が低い〜切迫性の問題

根拠(ii) :荷重に関して1mの積雪を考慮したこと等 〜施設の安全の問題

を挙げているが、いずれも考慮不尽であること。

まず、前提として、特に本件は、知見を新規制基準適合審査時に見落としていた、つまり原始的に基準不適合だったのに気づいていなかっただけであり、本来は許可を取り消すべきケースなので、使用停止が命じられたとしても、それはもともと事業者の落ち度であることを踏まえる必要があると強調。

その上で、根拠iの切迫性の問題について、

・DNPについては、規制委が火山ガイドに基づき、発生可能性を否定できないものとして考慮対象としているので、発生可能性を否定できないことに争いはなく、現在の火山学の水準では噴火の切迫性を把握することは困難。

・「大山が活火山でないこと」については、「活動性の高さ」は「噴火の切迫性」とイコールではなく、しばらく活動しなかった火山が突然大きな噴火を起こすことは枚挙に暇がないので主張自体失当。

次に、根拠iiの施設の安全の問題については、

・「積雪を考慮しているから荷重に対して安全であること」については、石渡委員は、1mの積雪を想定しているので、「増える重さは雪に比べてかなり小さい」と述べているが、火山灰の10㎝は雪の1mと同程度の重さになりうるため、この石渡委員の発言は科学的に明らかに誤っている。・本件は本来ならば許可が取り消されるべき事案であり、それにもかかわらず使用停止を命じないのは、極めて例外的な場合に限られるべき。例えば、噴出量として、科学的には5㎦を考慮すれば足りるけれど、保守的に20㎦程度を想定して基本設計を行った場合に、10㎦程度の噴火が発生しうるとなったとしても、20㎦で設計を行っているから安全ということはいえるかもしれないが、被告が主張する余裕は、5㎦の噴火を前提に基本設計を行ったけれども、結果的に保守性(裕度)が発生しているというもので、不確実性に対する備えとして必要不可欠な保守性を食い潰して「安全」と評価することは許されない。

・また、見直し後の層厚27㎝は、関電が提出していた許認可ベースの許容値(燃料取扱建屋や原子炉補助建屋で21㎝)を超えている。それでも問題がないというのは、保守性(裕度)を食い潰しているということである。まともな反論もされていない。

・非常用ディーゼル発電機のフィルタ閉塞についても、関電のいい加減な数値を精査もせず鵜呑みにしており、その判断が不当であることは明らか。

と、主張しました。

さらにダメ押しとして、現在審査中の関電の火山灰濃度想定には大幅な過小評価が存在するので、このまま保安規定変更認可がされても安全の確保はされないことも指摘しました。

これほど被告・国を追い詰めた裁判はそうありません。最終弁論では被告も口頭説明を行いましたが、「原告の主張は抽象的」という抽象的な反論しかできませんでした。

★第4回口頭弁論時に提出した書面

20211108 準備書面(5
_____重大性の要件に関する主張
20211108 準備書面(6)
_____被告第2準備書面の火山影響評価に係る主張への反論
20211130 準備書面(7)
_____被告第3準備書面への反論
______〜原発事故の損害の重大性、原告適格等
20211130 準備書面(8)
_____被告第4準備書面への反論
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20211207 結審時弁論(弁護士 河合弘之)
・・・・・原発事故の重大性・回復困難性(河合弘之弁護士)
20211207 結審時弁論(弁護士 青木秀樹)
・・・・・バックフィット制度の趣旨、運用のあり方について
20211208 甲F第89号証「口頭弁論終結に当たって
・・・・・~具体的違法性に関するまとめ~」(弁護士 中野宏典)スライド

 

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(↓勝訴判決を期待して報告集会後、原告と弁護団がマスクを外してガッツポーズ)

 

<参考>

▼【動画】原子力規制委 更田委員長の「虚偽説明」明白に 事前会議の音声記録入手
https://video.mainichi.jp/detail/video/6144581463001

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